Q どんな研究をしていらっしゃいますか?

 カーボンナノチューブの電気特性評価の研究で、大電流を流すパワーデバイスにカーボンナノチューブが使えるかどうかの評価をしています。カーボンナノチューブは熱伝導率がとても良く、大電流を流すことが出来るので、SiC(シリコンカーバイド)のような半導体の電流を流す部分に、カーボンナノチューブを電極として使うことができればと思っています。

 

Q 単純に付ければ使えるというものではないのですか?

 カーボンナノチューブを「取り付ける」のは、実はすごく難しいのです。直径は0.4~50ナノメートルとても細いので、手で並べることができない。ですから、正確には「取り付ける」のではなく、直接基板からカーボンナノチューブを「生やす」ようなイメージですが、これをするにもいろいろと問題があります。

 「接触」というのがキーワードになるのですが、SiCをカーボンナノチューブで挟むようなイメージで接触させて、しっかりくっ付いて、しっかり電気を通し、しかも壊れにくくする手法を研究しています。

 

 

カーボンナノチューブはあらゆる条件に配慮が必要

Q 研究のたいへんなところは?

 カーボンナノチューブというのは炭素が集まって出来ている物質なので、多少その表面で化学的に状態変化を起こし電気特性が変化しますから、金属等と違って扱いが難しいのです。いわば電流を流すための構造を物理的にコントロールするために、部品であるカーボンナノチューブの状態を想定しながら進めなければいけなません。

 更に合成するときには条件を決める必要があります。それも高校の時に習ったような化学式のように、何かと何かを掛け合わせて一つの結晶になるというような単純なものではなく、温度や圧力といった条件も気にしなければなりません。更にそれらの全てがナノスケールで行われますので、状態の把握が困難で、かなり扱いの大変な材料だと言えると思います。

 

大きなモーターなどに使われるパワーデバイスを

Q 将来はどのように?

 博士課程に進学後、研究職につきたいと考えています。国や大学の機関ではなく、民間企業の研究者になりたいと思っています。

 パワーデバイスで大電流を制御するものに関わっていきたいです。製品で言うと自動車や鉄道のような大きなモーターがあるところに使われているようなものに関われたら、と思っています。

 

10年後、更にその先の「ものづくり」を見つめて

Q 博士課程まで進む理由は?

 研究が好きというのがまずあります。それに加えて、製品を作るにあたって、近視眼的に今必要なものだけを追い求めるよりも、10年後、更にその先を見据えてものづくりをしたいという思いがあります。そのためには研究開発を業務とする、研究職につく必要があります。研究職として活躍するためには博士課程に進み、より深い知識、見識を持っている必要があると考えたからです。

 

Q 学業以外に熱中していることは?

 学部生のころですが、宇宙航空研究会というサークルに所属して、「鳥人間コンテスト」に出演しました。もともとナノの世界に飛び込む前には機械にも興味があったので、とても楽しんで活動していました。たいした成績は残せませんでしたが(笑)。

 

Q 夢や目標はありますか?

 本当の意味で満足のいく製品を作りたいと思っています。現在の製品に不満があるということではないのですが、満足のいくものというのは、現時点で想像できないような、圧倒的なものだと思うのです。

 とはいえ、ナノテクノロジーというのは結局のところ、現在あるものを極限まで小さくする技術で、完全にゼロから新しいものを立ち上げるというのではなく、現状を改善することでより良いものにしていこうという研究です。

 ですから、地道に積み重ねて行くことが大事だと思っています。そうすればいつか本当に満足のいく製品が作れるのではないかと考えているからです。そんな製品を作っているところを想像するとわくわくしますね。